隊長クラスと言えばまたこれ、昨日、国立文楽劇場文楽夏休み公演に行ったのでその報告をしよう。今回は「妹背山婦女庭訓」と「夏祭浪花鑑」について、説明とジャッジメントです、
「妹背山婦女庭訓」
今回は後半六段落(井戸替の段から金殿の段)までです。井戸替と杉酒屋は半分世話物入っています、可愛いお三輪ちゃんが中心、求馬が借家仲間の野蛮な騒ぎに巻き込まれる場面や家主と小太郎のやりとりも楽しい、杉酒屋に突入すると七夕に縁のある要素がじわじわと出てくる、ここからキーアイテムである苧環が登場、白い糸を男、赤い糸を女に見立て男の心が変わらないようにと祈る風習が!そして、「道行恋苧環」へ、ここでは橘姫が出現!お三輪ちゃんと橘姫の三角関係に直撃する求馬くん、恋に破れたつらさがしみて来る段落です。さて、鱶七上使から金殿までは時代物らしくなっています、この段落ではキーパーソンとして鱶七という大男が登場します、しましまの裃に手ぬぐい、徳利付きという武家が出てくる時代物としてはコーディネートが可愛い、入鹿の御殿で暴れ放題。酔った反動で飛び出した槍を気にせず横になるのも、弓矢を手にした家来たちの前にピンチになってもびくともしない!のですが、「姫戻り」から橘姫がやって来て、求馬が引き寄せられた。求馬の正体が淡海であることがばれて、刀を手にした、橘姫はそんな彼に殺されるのが本望だという。「未来までも夫婦」
「金殿」ではお三輪ちゃんが登場、恋人を取り返すために御殿に向かうのですが、官女たちにいじめられピンチに!まさに、女同士のSМシーン!そんな極限状況に追い詰められ鱶七に戦いを挑んだがとうとう絶命してしまった。苧環を手に息絶えたお三輪ちゃん、恋の三角関係から来る悲劇が感じられます。
*ジャッジメントタイム
井戸替では千歳大夫ちゃんの語りが威力を発揮しています、この段落はチャリ場、若い衆のやりとりを語る部分がかわいらしい、杉酒屋も英大夫師匠&清介師匠のコンビネーションがあいまってふわっとしている、特に、苧環が出てくる場面から「幾夜願ひの糸の苧環」の部分、語りで特にジャッジしなければならないポイントは金殿、休演中の咲大夫師匠に代わって咲甫大夫くんがピンチヒッター、まだまだだけど咲大夫式の力強い語り口に「たいしたもんだ」と言いたいところです。
さて、人形の方はと言うと、心当たりがあるのです、お三輪ちゃんの方は勘十郎師匠、求馬くんの方は和生師匠がつとめました、三年前にもあった役柄です。しぐさの可愛さはと言うと今まで以上でした。和生師匠に尋ねたところ「進歩がなかったかな?」と話していましたがそんなことないです、イケメンは顔が命、橘姫との三角関係のばめんでも凛として演じてくれました。
「夏祭浪花鑑」
こちらはみんなが大好きな夏芝居の定番!歌舞伎でもおなじみです。実はこの演目は実際には延享元年の冬に起こった事件が元になっていたのでした!つまり、芝居に変換するためにあえて実際の事件の時期とは違い、夏祭りのあいだということになったのです。意外に知らなかったでしょう!ここに出てくる侠客と言う者は「スーパーヒーロー」的な存在、やくざ者とは違うのです。でも、団七は半分ダークヒーローという側面が・・団七が現れたのは住吉大社の鳥居前、そこからドラマが始まるのです。序盤から若衆と三婦の絡み合い、団七と一寸徳兵衛の凶器プロレスを止めるお梶さんの姐さん肌がかっこいい。互いに袖を交わす二人が一つになって・・・「釣船三婦内の段」では悪人一味から身を守るために琴浦ちゃんと磯之丞をかくまう三婦ちゃん、お辰ちゃんの容姿に不安を感じた場面はまるでスピルバンのヘルバイラのよう、侠客の女房の人物像が完成されているのが見どころなのだ。後半、若い衆と三婦の2vs1のプロレス(?)に、さらに、最強の悪役、義平次が姿を現した!「長町裏」は義平次と団七、男同士の最後の戦いです義平次になじられて自らのプライドを傷つけられ、逆上し、祭り囃子の中、どさくさまぎれに義平次を斬りつける団七、「俺の怒りは爆発寸前!!」な場面です、最後は祭りのみこしが通り過ぎて立ち去った団七、君は何を思うのだろうか。
*ジャッジメントタイム
ここでは釣船三婦内の段が重要点、切場の住大夫師匠はこの段落での語りはとてもふんわりとしていて聴きこごちがあるように感じた、特に、三婦と若い衆のやり取りの部分と乱心したお辰ちゃんの心情を表す部分が。長町裏の方はと言うと、千歳大夫ちゃんと松香大夫ちゃんが威力を発揮、でも、三味線は藤蔵師匠というとどうしても源大夫師匠がいなければ・・でもメリヤスの間の取り方がこの段落を引き立てるのに最高のプレイング!グッドジョブの一言に尽きます。さて、人形の方はと言うと、今回は和生師匠は義平次、初役です、ダークヒーローはいかに悪役らしく見せるかが腕の見せ所、玉女師匠も団七の演じ具合はパーフェクト!長町裏における殺しの場面、宇宙刑事的な立ち回りは緊張感満点、紋寿師匠による三婦も侠客の親分らしい重量感ある演じ方もいいし、勘寿ちゃんのおつぎちゃんも惚れた惚れた。男に惚れられる女を演ずるのはそれなりの心意気が必要。蓑助師匠のお辰ちゃんはというともう文句なし、浪花女の心意気100%で演じられた、計算通り。
最後に、団七に「さぁ、お前の罪を数えろ」と言えますか?