二十六日、国立文楽劇場での文楽夏休み公演に行ってきましたので今回もその事後報告を行います。住大夫師匠の引退から三カ月、今度は源大夫引退事件が発生し大夫から人間国宝消滅という最悪の事態となってしまった。そんな中での文楽の状況が気になったので査察した結果も報告する
まずは今回観た演目の説明から
「平家女護島」
享保四年の八月に大坂竹本座で初演、平清盛の暴虐が蔓延した時代に島流しにされたレジスタンスたちの秘密を描いた作品、元々は五段構成になっており、鬼界が島の段は二段目です。
「鎗の権三重帷子」
享保二年夏に大坂高麗橋で実際に起こった出来事をベースにした時事ネタ、同年八月に大阪竹本座初演、事件発生から一カ月後に作成されたという異例の速さの演題です。しばらくして再演はなかったものの昭和三十年に復活、色男の話です。
「女殺油地獄」
享保六年七月大阪竹本座初演、同時期にこの作品のプロトタイプが歌舞伎でも上演されたらしい。こちらも暫くの間再演されたことがなかったが昭和三十七年に復活。最近ではテレビドラマ「弱くても勝てます」でこれのパロディを野球部が演じるという話があった。
さて、アイカツメンバーの有栖川乙女ちゃんとともにジャッジしますか、今回は彼女の要望でラブユーですと言えるポイントと人情の機敏が強く感じるポイントを押さえてみたよ。
まずは平家女護島から、最初に能がかりがあります「もとよりも~鬼あるところにて」の部分、島流しにされたレジスタンスたちの悲哀を感じさせる幕開けです。しかし、いきなり前半から笑える部分があって「可愛屋女の丸裸~海士の逆手を打ち休み」まで、そのうちの真ん中がエロ部分なのです。千歳大夫くんのイントネーションあふれる力が感じられる部分はここ、後は千鳥ちゃんの心情を表す部分「むごい鬼よ~軽い船が重ろうか」意気の強さがあってグッド!後半は俊寛と千鳥の夫婦になろうとする気持ちの表れが感じるところがいっぱいです、玉女くんの力こもった俊寛の悲哀の表現もばっちり。蓑助師匠も千鳥ちゃんの情の深さを見事に表した。
続いては鎗の権三、こちらはおとめちゃん的には「どうでも権三は良い男」の部分がラブユーですと言えるポイント、なぜなら権三は男前で武芸にも秀いているから。他の女に二またしたりさらに、源平を引き合いにしたり、たとえば「景清これを見てものと」や「我がより先に先陣の梶原源太は何者」です、浅香市の段では前者で津駒大夫くんの語りに強い効果があります、「人にな見せそ乱れ髪~みえければ」までの部分は寛治師匠の三味線と寛太郎くんの琴のバイオリンク効果がしっかりと効いている、文雀師匠の遣うさえちゃんのぬくもりこもった母の愛を引き出すこともこの効果によってなし得るものと言われても過言ではないでしょう。数寄屋の段では呂勢大夫くんのハイトーンデジタルな語り口が威力を見せるところ、特に、さえちゃんが権三と雪ちゃんに異常なジェラシーを抱いている部分「お雪さまと権三さま~恨めしい憎らしい」ここがポイントです。後、逆ドメスティックバイオレンスなところも。こちらはさえちゃんと権三くんの掛け合いは文雀師匠と勘十郎師匠の計算された表現力が感じられました。最後の段落、妻敵討の段では隠しギミックとしてうら盆会の盆踊り唄がありますがおそらく大昔のくどき音頭ではないかと推測、盆踊りの中でのデスマッチが見どころ、こちらは市之進と権三の一騎打ち、玉女くんと勘十郎師匠の超絶技巧が発揮されるところ、こちらも緊張感がすごく感じられて夏芝居度も100%。超いいね。
最後は女殺油地獄、こちらは「船は新造の乗り心」の部分がかわいい♡野崎まいりで大阪の遊女をからかう部分も。こちらは咲甫大夫君のハイトーンデジタルな語りに少し上方らしさが醸し出されていました、やっぱり文楽の言語は上方言葉♡さらに、「帯といて~裸になってじゃと」というお吉と与兵衛がセックスするのではないかと疑う七左衛門の驚きも。徳庵堤の段はそんな感じです。おとめちゃん的には河内屋と油店の段、こちらは徳兵衛が与兵衛に説教をする部分もいいけど家庭内暴力の部分がショックだった、勘十郎師匠の立役エナジーが感じられるポイントは河内屋の段の中盤から油店の段、いいね。油店の段は男意気のあふれるポイントがあります、「河内屋与兵衛男ぢゃ男ぢゃ」ここを強調、借金を断られお吉を殺してしまう与兵衛の狂気を咲大夫師匠は見事に表現できています。
なお、逮夜の段は今回初登場の超レア段落、近松系にはこの手のレア段落多いものです、ここでは心配していた文字久大夫くんのことですが大丈夫だろうかと思いました、あるときは可愛く、あるときは男らしく語り分けるという住大夫式の語り口はまだまだですがある程度できていました。
おとめちゃん、こんな感じのまとめ方でどうですか?ラブユーですと言える部分と情を深く語りなすポイントは何とかおさえました。住大夫引退、そして源大夫引退事件後の文楽監査を兼ねたレポートはここで終えます。